モームの『サミング・アップ』の新訳(行方昭夫訳)が目についたので読んだ。すごく面白かった。思えば高校生だった時代、モームを全部暗記するほど読んだものだ(なにせ試験に出ると信じられていたから。でもそれ以上に面白かったから)。いま読んでも面白い。いやもっとオモシロイ。
日本の戦後の一時期においては非常によく読まれたモームだったが、その後は読まれなくなってしまった。あまりにもシニカルで現実的(身も蓋もない)と言うことで「一所懸命イズム」や「PC(ポリティカリー・コレクトネス)」が蔓延する世相には合わなくなってしまったのかもしれない。
たとえばモームの小説で繰り返し出現するプロットに、生まれつきの才能がないのに努力さえすれば何とかなると思いこんで一生を棒に振る男や女の話がある。絵がまるで下手なくせに一生懸命食うや食わずでパリで苦学する女子学生とか、指が太くて短いのにピアニストになろうと思ってすべてを擲って努力する男とか。いずれも悲惨な結末となる。こういうお話は日本の高度成長期の一生懸命「プロジェクトX」世代や「やさしい一辺倒」の平成世代には、なんとも違和感があるのである。
しかし、ようやく時代も落ち着いてきたし、また読まれるようになったのだろう。みんなが大人に成長したとすれば、経済の衰退も、まんざら悪いことでもない。
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