2005年3月9日水曜日

『山中湖周辺の民俗』(吉田チヱ子)……ちょっと高いが面白い本だ



山中湖は新宿からのアクセスがよく、適度に施設がよく、なんて言っても富士山が素晴らしく、最近よくお邪魔するのだが不思議なことがある。山中湖の一番のウリは湖と富士山であるのに、両方とも同時に見える場所は非常に限られている。その意味で一番のロケーションは北岸の長池地区なのだが、ここが不思議に開発されていない。何故だ?ということ。この本は60年以上長池地区にお住まいの家庭の主婦が書いた「山中湖民俗学」だが、山中湖の暮らしについていろいろのことがわかってくる。日本の田舎を理解するにも役に立つよ。

以下、印象、抜粋、紹介など順不同に:
  1. 著者は1924年生まれの女性。昭和19年に山中湖(長池)に疎開移住され以来ここで過ごされている。主に長池地区の生活、族制、儀式、正業、衣食住、年中行事、信仰、芸能などについて、極めて具体的な記述。2004年に300部発行。定価5900円。
  2. 特に入会地制度について、詳しい説明がある。長池地区の山林(150ヘクタール)は江戸時代から続く38家族(すべて羽田、天野姓)の共有地となっている。南岸の旭が丘地区(向切詰)は長池、平野、山中三地区の共同入会地。
  3. 山中湖村の人口。平成13年。山中、3509人。平野、1374人。長池、406人。旭が丘、612人。合計5901人。
  4. 富士北面の林野(国有地、県有地、北富士演習場)には、山中湖村3地域が入会権を持つ。
  5. 湖畔周辺の山林化している地域は、昭和30年代までは桑畑だった。兼業が進むにつれ桑畑を廃止して植林した。
  6. 山梨県内の林野面積の半分はもとは御料地だったのが明治44年に下賜された。しかし御料地に編入される前から住民は入会権を持っていた。だから県有林は県有林であっても県民のものではなく入会権を保有する地元住民のものであると。
  7. 長池地区の地権者がいまだに38家族に限定されているのは、伝統的に分家をやらなかったため。

長池地区ではいまだに羽田、天野姓ばかり。山中地区では高村姓ばかりとなる。「富士五湖の原宿」と今風にもてはやされる山中湖だが、一皮むけば、旧態依然のムラ社会なのである。日本の農村とは、どこでもこんなもんかも知れない。

でも、長池地区は開発が遅れているが故に、都会の人達にはアクセスが難しい山中湖で一番静かな地区となっている。まあ、一長一短だというところだろうが。

山中湖周辺の民俗
吉田 チヱ子
岩田書院 2004-04


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Posted: Wed - March 9, 2005 at 04:50 PM   Letter from Yochomachi   山中湖   Previous   Next   Comments