2005年8月28日日曜日

山中湖「青べか物語」:ディンギー〔シカーラ〕を買う


山本周五郎に『青べか物語』という印象的な随筆がある。主人公の「先生」が千葉県の浦安に住みつく。そこで使われている「ベカ船」という生活用の小舟を買うというお話し。青いペンキで誤魔化しているがかなりのボロ船で、先生にそれを売りつけたい地元の漁師は、いかに立派な船かを身振り手振りで力説するのであるが、力余って手をかけた舳先がぽっきと折れてしまう。漁師は構うことなく、ペッと唾を吐いて折れた舳先をくっつけて話を続けるというくだりが大爆笑だった。散人も、このたび山中湖で、青べかならぬ、青い小舟「シカーラ」を買った。相当古いが、とてもチャーミングである。



売ってくれたのは、山本周五郎の随筆とは大違いのとても正直な人。あまりのボロ船だから売りたくないというのを無理やり売ってもらったのだ。ボロ船だから申し訳ないと言って、ニューセール(ぴかぴかの新品)、アンカー、ライフジャケット、パドル、おまけにペットボトルで作ったとても使いやすいべーラーまで、全部付けてくれた。うれしい。

シカーラとはヤマハの13フィートのスループ艇。幅がばっちり広いので安定感がある。昔のY15みたいな感じ。コックピットも13フィートとは思えないぐらい広い。ブルーウォーター派のディンギーだからレースにはあまり使われない。オープンレースなどでは、FJ,シーラーク、シーホッパーなどと比べ、8ポイントのハンディを貰うほどだ(つまり遅い船だ)。山中湖では高校生がFJ、シーホッパーで練習しているが、計測上ではシカーラは彼らの相手ではない。

しかし、散人は元より「青べか」として買ったもので、高校生相手に追いかけっこをしようなぞという馬鹿なことを考えてのことではない。計測の数字などは気にしない。沈しないのが一番なのである。

今朝軽風下で初乗り。なかなかいい。フットベルトやカニンガムなどの調整をやっていると、風上にFJが数隻出てきた。地元の高校生たちだ。ばっちりまじめに二人乗りでクローズホールドで帆走している。そう言うのを見ると、つい散人の本能が呼び起こされてしまう。やっぱり追いかけっこをやってしまった。

あまり露骨なのはいやなので、はるか風下後方から目立たないようにのんびり付いていった。ところがである。30分もしないうちに散人のシカーラが前に出てしまったのだ。タックで風のふれを利用してのことではない、まっすぐに走っていただけでのことだ。FJはアプセットしたのか、転覆してしまう始末。多分一年生だったのだろう。

女子高生がレース仕様のシーホッパーで勇ましく帆走していたが、彼女にも走り勝ち。

結論。シカーラは、シングルハンドで乗る限りはなかなか走る。今日は一人で乗っていたため軽かったのだ。もっと吹いておればとても勝てなかったはずだが、幅が広いために相当のブローの中でも一人でもじゅうぶん乗れるのである。忘れ去られたようなディンギーであるが、まだまだ捨てたものではない、ということをいいたかった。

でも、シカーラを買ったのは、女子高生と追いかけっこをするためではない。『青べか物語』の主人公同様、付近の入江とか砂浜を散策するため。レストランにも裏手に桟橋があって水上からのお客歓迎と言うところもある。いよいよ山中湖「青べか物語」生活の始まりである。楽しめそう。

Posted: Sun - August 28, 2005 at 05:26 PM   Letter from Yochomachi   山中湖   Previous   Next  Comments (2)